第1回 誰も死なない芝居が好き

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2021年の9月、浅草木馬館で「たつみ演劇BOX」の「新近松物語」を観たとき、座長小泉ダイヤが演じる茂兵衛が「エロかった」と、わざとくだけた言葉でインスタグラムに書いた。色気がある、というのではちょっと違う。やっぱり、エロいと言いたくなったのだ。「おさん茂兵衛」として知られるこの物語、忠義な奉公人茂兵衛の、巻き込まれ事故みたいな展開に、ほんとのところ茂兵衛はどう思ってるんだろうというモヤモヤが残る。しかし「たつみ演劇BOX」の「新近松物語」では、茂兵衛のおさんに対する恋心がはっきりと描かれて、その告白によっておさん自身もまた、生まれて初めて恋に身をやつす幸せを束の間生きる。磔(はりつけ)にされる最期の瞬間は、まさにふたりの恋の成就、昇天の瞬間なのだ。川口松太郎が戯曲化した映画「近松物語」に寄せた筋立てで、身投げをしようと乗った小舟で、どうせ死んでしまうならとこれまでの思いを告げる茂兵衛。演じる小泉ダイヤが、それまでの忠義な奉公人の顔から、突然、恋に狂った男に豹変する。そこから、ダイヤ茂兵衛のエロさがはじける。恋は狂ってなんぼだし、狂ってなけりゃあこんな逃避行できないよという説得力に充分だった。

小泉ダイヤのなかには、舞踊でみせるきれいさやかわいさ、カッコよさという一面とは別に、どこか変態チック(褒めてます)な色気があるんだなと思った。そのことを伝えると、「お、ありがとうございます。嬉しいです」と、ちょっと照れくさそうに答えるマスク越しの声に、誠実な人柄がにじむ。

「新近松物語」もそうだが、劇団で昔からやっている芝居以外のものは、ベースとなる戯曲や映画などを参考にしながら、辰己小龍が「たつみ版」としてつくっているものが多い。

「台本を姉が書いて、主役をやる兄(小泉たつみ)や僕が、このシーンはこうやりたいとかリクエストします。昔から劇団でやってきた芝居は、台本はないですからね。決まり切った台詞は少なくて、入り(台詞のきっかけ)や最後の柝頭(きがしら)のとこの台詞は決まってますけど、あとは自分が思ったように台詞をつくっていくんです。ストーリーがつながればいいわけなんで。だから、昔からの台詞をたくさん使えるとか、台詞の引き出しが多いことが大事なんですよね。誰が教えてくれるわけではないので、いろんな人の芝居を観て、こんな台詞がいいなあって自分でつくりあげてひとつの役にしていく。よくやる芝居も、前回と同じではなくて、自分で台詞の細かいところはつくりかえてます」

得意な演目はないけれど、好きな演目はいっぱいあるという。

「誰も死なない芝居が好きですね。たとえば『男の花道』とか『大阪嫌い物語』とか。終わってから、よかったなって思います(笑)。大衆演劇の芝居って、たいてい誰かが死にますよね。仇討ちに行くとか、誰かのために死んで行くとか、悲しい芝居が多い。誰も死ななくて、ほんわかして、涙もあって笑いもあってっていう芝居が好きですね。喜劇でも、どっかでホロっとかキュンとかして泣けるシーンがあるのが好きです」

舞台のことは、父であり師匠である二代目小泉のぼるに教わった、というよりも観て盗めと言われたという。

「父はね、ほとんど教えるということはなかったですね。観て覚えておけ、生の舞台を観て芸を盗みなさいっていう。新しい芝居をするぞってなって、台詞を教えてくれるんですけど、次に、このときはどういう風にやったらいいんですかね?って聞くと、1回目の稽古のときに教えただろって言われて。当時は録音とかしなかったので、とにかく1回で聞いて覚える。どうしても思い出せないときだけ、すみませんもう一回聞かせてくださいって、正座して土下座してお願いしますって。機嫌がいいときは教えてくれるんですけど、忙しいときとかだと、1回で覚えろって言ったやろがーーーって(笑)。聞き返すのが怖いから、必死で覚えました。それがこの世界なんで。いや、優しいんですけど、舞台のことに関しては厳しかったですね。それでも僕は末っ子で甘やかされたほうで、兄貴のときなんかはスパルタでしたから。いま思うと、見ていてかわいそうなくらい。でも、僕にしても兄にしても、父には感謝しかないです。ほんとに。仕事見つけてくれて、人間としての常識を教えてくれたんだろうなあって思います」

第2回につづく!

(2021年10月12日 三吉演芸場)

取材・文 佐野由佳

プロフィール&アンケート

小泉ダイヤ

1984 3月4日生まれ。

初舞台は?

何とくなく自分の記憶にあるのは、4歳くらいにちょろちょろっと出たことですかね。その前に抱かれて出てたりしてるみたいですけど、覚えてはいないです。

仲のよい役者さんは?

よく聞かれるんですけどね、いない(笑)。いや、いるといえば数多くいるんです。友だちとは違うという意味で。後輩とか幼ななじみはいます。

もらって嬉しい差し入れは?

気持ちです。いいこと言おうとしてないですよ。ぶっちゃけ、ほんと気持ちですよ。たとえば、水が嬉しいですーって言ったら、水じゃないものを差し入れてくれた方に申し訳ないので。水にしろお茶にしろ、差し入れてくれる気持ちがうれしいです。

いま欲しいものは何ですか?

リアルなこというとお金ですね。いま世の中が大変で、お客さまも少なくなってるときですけど、ここで守りに入ったら終わってしまうと思うので、いまこそ攻撃に出ようと僕は思ってるんです。だから衣装つくったりカツラつくったりしてるので、先立つものとしてのお金。お金が入ってこないかもしれないからつくるのやめよう、ではなくて、先、先で、注文しちゃってます。だから、お金っていうか、舞台のもの、ですかね。

そんな衣装はどこでつくるのですか?

三吉演芸場の近くの、商店街のなかにある衣装屋さん。昔からそこで衣装は揃えてます。あとは浅草。大阪の劇団だけど衣装は関東、カツラは京都です。浅草は父の代からお世話になってますけど、横浜や京都は僕らの代になってから。あとは、松竹衣装さんでつくったりしてます。歌舞伎の演目なんかで、この役はこの衣装じゃないとおかしい、っていうのがありますよね。そういうのは、似せてつくるんじゃなくて、もう松竹衣装さんにお願いします。あきらかにその日一回しかやらない演目のときは、借りることもあります。

休みの日は何をしていますか?

家にいます。劇場公演のときはお稽古入れちゃったりしますけど、そうじゃないときは、家にいて、普通に過ごしてます。コロナの前は旅行も行ってましたけど、いまはそれもできないのでね。

好きな食べ物は?

鶏肉です。「鶏の甘辛煮の大葉乗せ」っていう、普通に家族でご飯食べるときのメニューにあるんですけど、それが好きです。あとソテーとか。鶏肉は毎日食べます。

自分の性格をひと言でいうと?

気分屋です。この歳になっても。何とかしないとなと思いますけど。

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