第10回 古典を知る

1223

若い世代の役者さんとの交流はありますか?

よその劇団とあまり交流がないので多くはないですが、三咲暁人くん(劇団暁)くらいですかね。後輩として、すごくかわいいです。いいもの持ってますよね。10年くらい前の自分を見てるみたいな感じがします。すごく頑張ってて、舞台が好きで。いいなと思うのは、大衆演劇のなかでも古いものが好きなんですよ。

若いうちは破天荒な感じでやるのもいいと思うんですけど、歳をとったときにいいといわれる役者になるためには、昔からある古いものをちゃんと知らないとなれない。若いころやっていた役も、歳を取ったらそのときなりの渋さでできるようになりたいじゃないですか。僕自身がそうですけど、劇団はずっと守っていかなきゃと思うし、若いきれいさだけを売りものにしてたら、息長くは続けられないですから。

僕は、十八代目中村勘三郎さんが大好きで、勘三郎さんがおっしゃっている「型があるから型破り、型を知らずに壊したら、それは単なる形なしだ」っていう言葉が、ほんとにそうだなと思うんです。型を知るっていうのは古典を勉強することで、そういう役者は歳をとってから深みが出てきますよね。

ほかにも手本にしたい役者さんはいますか?

萬屋錦之介さんも大好きですね。大川橋蔵さん、長谷川一夫さん、勝新太郎さんとか、とんでもない色気じゃないですか。それも、いかにもオレはカッコいいんだぜ、っていうんじゃない色気。あの方たちは、みんな歌舞伎という古典を知ってるんですよね。古典を知ったうえで、新しいことに挑戦しますよね。勝新太郎さんは、きれいな役をずっとやっていたのが、急に汚い座頭市とか岡田以蔵とかやりだして、それが世界的に評価された。立ち回りでもなんでもできる人が、崩してみるからいいんですよね。

まあ、昔の役者さんは私生活もすごいですけどね(笑)。人並み外れた遊びもしてて、だからあの色気っていうのももちろんある。でもそこを勘違いして、あれだけ遊ばないとあの芸ができないかっていうと、そうではない。いま僕らが恵まれてるのは、映像が残ってますからね。できあがったものが見られるんだから、それを真似してでも吸収して、自分のものにすればいいと思ってます。芸のこやしを理由に、よからぬ遊びをするのは勘違いです(笑)。

派手な着物を着て、お花もらって、ブランドものが買えればそれでいいという役者もいるかもしれませんが、それでは役者としてのブランドにはならない。三咲暁人くんにも、何で自分が生きてるか、何で自分が舞台をやっているか、忘れちゃだめだ、流されるなよってよく言います。

(2020年7月3日 三吉演芸場にて)

取材・文 佐野由佳

関連記事