第11回 いまなら踊れる

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舞台の構成で心がけているのはどんなことですか?

父(初代恋川純)もよく言いますけど、1カ月の公演は、最初の10日間が勝負なんです。その土地のいろんな人が見にきて、その人たちが、頑張ってるよ、いい劇団だよって口コミで広めてくれたら、後半にお客さんが絶対に増えるはずなんです。それで、中盤に特選みたいなものをもってきて、後半に、まだこんなのやるの? っていうような、目を引くことをバーっと入れると、すごい盛り上がっていく。1カ月の物語ですよね。

一回の公演のなかでも同様ですか?

料理のフルコースと一緒で、ずっとメインじゃしんどいし、ずっと野菜料理じゃつまらない。どう組み合わせるかを考えるのが、座長である自分の仕事と思ってます。お芝居がお笑いのときは、がっつりした踊りや立ち回りっぽいものも入れて、逆にお芝居が正統派のものだったら、ショーは盛り上がるものを多めにしたり、笑いも入れたり。僕の踊りでも、ちゃんとした袴踊りとかは、一曲フルで踊るんですよ。でも派手なポップス系の踊りは、パッと出てワッとお客さんが盛り上がってる間に引っ込むんです。見せすぎない。その合間に、肩の力を抜いて見られるトークを挟みます。

あらかじめ構成は考えておきますけど、幕が開いて、お客さんの顔を見ながら、何が好きなのかなって探ってるんです。それにあわせて、急に構成を変えたり、曲を変えたりすることもあります。生ものですからね。どんなに頑張っても、その日に合ってないものはダメなんです。うまくいかない。だから引き出しを山ほど持ってないと。それで最後に、全員がワーッと盛り上がって喜んでくれたら、ああよかったなって。全体を通して、みんなが楽しんでくれるように心がけてます。目がいいので、後ろまで見えるんですよ。

座長が踊る「ファイト」は定評がありますね。

「ファイト」は自分のなかでも、特別な感じがしています。いい曲だなと思ってずっと踊りたかったんですけど、一カ所だけ女の人目線の歌詞があるんですよ。「あたし男だったらよかったわ 力ずくで男の思うままにならずにすんだかもしれないだけ あたし男に生まれればよかったわ」ってところ。あそこは男の自分には踊れない、って思ってたんです。でもあるときに、それは見に来てる女性のお客さんにゆだねようと気がついて。あそこは絶対に動かずに、後ろを向くようにしています。あそこまでくれば、曲が素晴らしいからお客さんの気持ちが入ってるので、僕は何もしなくてもいいやと気がついて、初めて踊ることができたんです。

そういう曲は、ほかにもあります。先月、吉幾三さんの「酔歌」を初めて踊ったんですけど、あの曲も、10年前くらいに聞いてなぜだか涙が出て。これをみんなでラストで踊りたいなって思ったんですけど、いまの僕には踊れないってどっかで思ってて、ずっと踊ってなかったんです。

いつも化粧しながら、いろんな曲を流してるんですけど、先月、「酔歌」を聞きながら、いまなら踊れるって思ったんです。その日の昼の部、個人舞踊で急に踊ったんですけど、自分でいうものなんですけど、すごいよかったです(笑)。

曲に負けると思ってる間は踊れなくて、あるとき踊れるっていう瞬間がきて、踊れたあともずっと考えてるんです。どうやったらもっとよくなるかって。自分のなかでちょっと違うなと感じるところを、修正していくんです。だから「ファイト」も、いまも進化しています。次に踊るときのほうが、絶対いいはずです。最近、こういう曲で踊る僕を、兄貴(恋川純弥)が、すごいって言ってくれました。ほめられたこと、めったにないんですけど(笑)。

(2020年7月3日 三吉演芸場にて)

取材・文 佐野由佳

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