第5回 不安なくらいがちょうどいい

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大衆演劇の世界で尊敬しているのは、父・二代目小泉のぼると叔父・勝龍治、好きな役者は中村錦之介という。

「歌舞伎役者でいったら、勘三郎さんの歌舞伎はいままで観たことないような感じで面白かったし、やっぱりもう渋い、カッコイイってなったら吉右衛門さん。鬼平犯科帳とかむっちゃカッコいいやん。歳いったら、ああいう渋い演技ができるようになりたいですね。ほんとに。50超えたら鬼平犯科帳、やりたいですもん」

50といわず、40歳のいまからでもやってほしいくらいです。

「どうなんでしょうねえ。自分が思い描いていた40歳は正直、こんなじゃなかったんですけどね。なんかもう、やばいくらいにダンディーになってる予定だったんですけど(笑)。実際の自分は、コロナ禍で外に出られないのはわかっていても、しゃべりたい、遊びたい、飲みに行きたいなーとか思っちゃったりしてるわけですから。40になったら、もっと落ち着いてるのかと思ってましたよ。コロナ前までは、朝まで飲んでとかありましたよ。夜が明けちゃった、最悪〜って。2時間でも3時間でも寝よって寝て、若い子の目もあるので、朝はピシーッとして、おはようって言って、陰でこんなん(膝を抱えて)なって。飲んで遊んだときほど、よけい頑張らなきゃっていう気持ちで。お客さんにも失礼じゃないですか。それなら飲むなよって話なんですけど。でも発散も大事じゃないですか。それもいいなと思って。いいことも悪いことも話のネタになるし。経験は大事かなと思います」

二日酔いで膝を抱えているときでさえ、品よく綺麗な小泉たつみであることは想像に難くないが、意外にも、人生常に、不安定でありたいという。いま、劇団としてまた変わるべきときを迎えていると感じている。

「悩むことはいっぱいありますよ。いまのままじゃだめやなってなっても、具体的に次に何をやらなきゃいけないのかが見えてこないときが正直あるわけですから。何かを変えなきゃ。うちはいまその現状に立ってると思います。もちろんこのベースを崩すつもりはないですけど、何かこうまだ壁があるような感じがして。それを取っ払って、何かもうひと手間加えて、また別の見せ方ができるようになれば、もう一回、飛躍できるんじゃないか。でもそれが具体的になんなのかって言われたら、ちょっとわかんないです。でも肌で感じることっていうのは、間違ってないと思う。虫の知らせじゃないんですけど、このままだったらよくないという気がするんですよ。その勘でこれまでやってきて、うまいこといってきたから、それは信じるべきなのかなって。このままでいるとやっぱりダメなんですよ。安定って、一番ダメだと思うんですよ。不安定がいい。安定しちゃうと落ち着いちゃうんで、面白みがなくなるでしょ。不安に思ってるくらいが、何かができるのかなって思います」

「かつてのように、新作を増やせばいいってもんでもないし。要は、ずーっと観てくださってる方々には新しいものを観てもらいたい。でも、初めてのる劇場の、初めて観てくださるお客様にしたら、観たことないやつは全部新作なわけですから。結局、人が集まるとか喜んでもらうっていうのはそういうことではないなって最近また思い始めてるわけですよ。極論言うと、いいものをつくるということなんですけど。同じものを観ても、何回も笑える、何回も楽しい、何回もきれいっていうものをつくっていかなあかんねやろなっていう気はしますよね」

いままた、劇団員も増やしていきたいという。

「大変ですけど楽しいかなと思って。みんなもライバルが増えれば、どんどん頑張るだろうし」

実生活では、ふたりの娘の父親でもある。

「上が中学1年で下が5年生ですね。大阪で学校に通ってるので、舞台はたまに。役者になるのかどうかは、どうなんですかね。別に具体的に何も言ってないんで。絶対なってほしいっていうのもないんで。うちもね、そんなん自分で決めた道やからって言われたんで、やりたいと思うんであればやったらいいと思う。自分の人生やから。だからまあ、うちの姉ちゃん(辰己小龍)の末の子が男の子で、ダイヤのとこの子も男の子やから、二人がどうなるのかわからないですけど、そこにうまいことつないでいけたら、自分の役目がとりあえず果たせるのかなと。継続は力なりっていう言葉をうちの父が好きだったんで、いいときだけじゃなくて、悪いときもたくさんあるけど、あきらめずにずっとやり続けることが、積み重ねていっての信頼と力になっていくということなのかなと思います」

最初「こっ恥ずかしいから撮らないでほしい」と言われた化粧を落とした素顔の写真を、最後にもう一度お願いして撮らせてもらった。話をしているときの表情が、とてもよかったからだ。「いや、化粧してないとほんとに恥ずかしいんですよ。化粧って仮面なんでしょうね」と小泉たつみは言った。いずまいを正し、まじめな顔になって、それから照れ臭そうに笑った。

番外編につづく!

(2021年10月26日 三吉演芸場)

取材・文 佐野由佳

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