第4回 殺陣と三味線とわたし

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おそらく大衆演劇という枠を超えても、恋川純弥は殺陣に秀でた役者のひとりだ。

「昔から殺陣は好きだったんですけど、あくまで大衆演劇の殺陣という感じでやってました。座長になってから、大阪に殺陣を専門にやる集団があって、その方たちを雇って舞台に出てもらいつつ習うようになったんです。そのうちに東映の方に来てもらうようになり、そのなかのおひとりが、この間舞台でご一緒させていただいたすごく立ち回りの上手い方がいる、一緒に道場いってみないかと誘ってもらって、行ったのが大山克巳先生の大山塾だったんです」

新国劇の大山克巳との出会いが、本格的な殺陣に目覚めるきっかけになった。

「大山先生の立ち回りをみて、もうこれだ! と思って。新宿のスポーツセンターみたいなところで、毎週稽古をしてらしたので、東京に公演に来るたびに通いました。篠原演芸場は昼の部がなかったので、座員も全員連れて行きました。開演1時間くらい前に劇場に戻ってきて、ご飯をばーっと食べて、みんなで化粧して、夜の部やって、終わってから次の日のお稽古をして、終わってから、今日習った殺陣の稽古をして。そんな毎日でした。立ち回りって、ひとりがうまくてもダメで、相手もうまくないと成り立たないですからね」

迫真の殺陣が物語に説得力を持たせる。「大利根囃子」より。平手造酒(恋川純弥)とかつての同門秋山(二代目恋川純)の対決。(2019年8月9日神戸・新開地劇場)撮影:多々良栄里

以前、二代目恋川純座長が口上で当時のことを、「自分は10代だったのに、ついていけなくて、毎日死にそうで。何度も兄貴に殺されるって思いました」と話していましたね、と伝えると。

「楽しかったからできたんですよね。それまでやってきたものと全然違って、立ち回りの考え方じたいが新国劇はリアルなんです。ほんとに武道をやってる人が見ても、ちゃんとやってるなっていう殺陣を、新国劇は心がけてきたと聞いて。立ち回りがいいと、芝居のクオリティが上がるんです。そこから、新国劇のお芝居の映像もいろいろ観るようになって、すごいなと思いました。僕が大山先生にいろいろ細かく教わって舞台でやったのは『月形半平太』。あと『殺陣田村』ですね」

「殺陣田村」は、謡曲「田村」にのせて、殺陣の芸術性を型によって表現した作品。新国劇の澤村正二郎が立案した。立ち回りを殺陣と呼ぶ由来になっている。2010年に国立劇場で開かれた「演劇人祭」で、恋川純弥は大山克巳の門弟として、二代目恋川純ほか、当時の座員とともに、大衆演劇の役者としては初めて、国立劇場の舞台に立ち「殺陣田村」を演じた。

「殺陣田村」より「龍虎」をモチーフにした立ち回り。二代目恋川純座長と殺陣の美しさを見せる。(桐龍座恋川劇団 2019年8月8日 神戸・新開地劇場)撮影:多々良栄里

三味線はいつからやっているのですか?

「静岡の大井川娯楽センタで公演していたときに、高橋竹童先生が一番前で観てらしたんですよ。大衆演劇がお好きだったそうで。娯楽センターの女将さんが、あの人は三味線のすごい方なんだよ、興味あるなら紹介するよっていってくれて。習うようになりました。

そのときに、20万円くらいの三味線を買いました。当時は安いのでもそれくらいのしかなくて。いまは中国製のもっと安いのもありますけど。でも、全然弾けないまんま、ちょこちょこ触る程度で。25歳のときにもう一回やりたいなと思って、本格的にはそこからですね」

その後、吉田兄弟の兄、吉田良一郎さんとの出会いを通して、ふたたび三味線への熱が高まっているという。

「僕もいい三味線をいっぱい持ってたんです。三味線業界で先生とかプロでやってらっしゃる方のを聞いても、僕の三味線はよく鳴ってると思ってたんです。でも、吉田兄弟さんの音を聞いたら、別ものでした。何ですかそれ?!って感じで」

楽屋の一角に、ふたつの黒いケースが置いてある。三味線ですか?

「そうなんです。ひとつは、北海道にある、吉田兄弟さんの三味線をつくってらっしゃるところに、原木から選んでつくってもらいました。出来上がるまでに時間がかかるというので、ほんとは昨年末のディナーショーで、小泉ダイヤ座長と三味線を弾くことになってたので、そのために買った中古がもうひとつの箱です。この中古が大当たりで。新しいのより、よく鳴るんですよ。木目もきれいだし、音もいいし、すごい三味線なんですよ。やっと新しいのもできてきたので、どんどん弾き込んでいかないとと思ってます」

下世話な質問ですが、いい三味線は、値段もいいんですよね?

「そうですね。ウン百万円です(笑)。木から選んでつくったわりには安いほうですかね。東京の三味線屋さんだったらもっと高いと思います」

三味線の話をするときは、一段と瞳がキラッキラである。舞台で三味線を披露するのはもちろんだが、芝居のなかの役として弾くこともある。

「『遊侠伝』のなかで、生き別れた弟を探す人斬りの役をやるときに、津軽訛りがきっかけで兄弟だとわかるという設定にしている劇団もあると思うんですが、僕はちゃんとした津軽訛りは難しくて話せない。なので、人斬りが津軽三味線を弾く場面をつくって、それとわかる設定にしたことがあります」

先日の「遊侠伝」では、三味線は登場しませんでしたね。

「今回、このいい三味線しか持ってこなかったものですから(笑)。芝居で使うと、舞台に置いておかないといけないので、何かの拍子に傷つけたり壊したりしたら、目も当てられないので。今回は設定を変えました」

そのかわり(ではないだろうが)、舞踊ショーのなかでは、二代目恋川純座長と息の合った連弾を披露してくれた。

取材・文 佐野由佳

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