あさひやに聞く:番外編「役者に着物を贈りたい!」

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誕生日公演など特別な日に、舞台の下からたとう紙にくるまれた着物が、ドサドサと舞台に運ばれるのを最初に観たときは驚いた。客席から役者に衣装をプレゼントするという、大衆演劇独特のセレモニー。すぐさま広げて舞台の上で披露、その日の舞踊ショーでさっそく着て踊ってくれるという一連の流れも、ファンには嬉しいお約束。

自分が贈るかどうかは別にして、あの衣装、どうやって注文するの? いくらくらいかかるの? など、モヤモヤと思ったことのある人は少なくないだろう。

写真は、劇団花吹雪・三代目櫻京之介座長の誕生日公演で、舞台にあがった贈り物の衣装の数々。京之介座長の場合は、ご贔屓さんたちの了解のもと、こうした特別な日に贈られる衣装は「ありがたいことに、僕がつくりたいものをつくらせてもらっています」という。これは珍しいケースだそうで(詳しくはこちらから)、贈り物の衣装がすべてそのようにつくられているわけではないらしい。ではどうやって?

この機会に、大衆演劇の舞台衣装を製作する、あさひやの衣装プロデューサー溝田佳恵さんに、質問してみました。

Q.推しの役者に舞台衣装を贈りたい場合、どうしたらいいですか?

A.その役者さんのどんなところが好きなのか、思う存分、話してください。

「まず最初に、お客様にご予算をお聞きします。うちの場合、最近は平均すると男物は15万円前後、女物は20万円前後、引き(裾引きの着物)だと30万〜50万円くらいが一番出ますというお話をして、お客さまのご予算をお聞きしながら、男がつくりたいのか、女がつくりたいのか、うかがいます。さらに、その役者さんのどういうところが好きなのか、どんな曲を踊るときが一番好きなのか、など、その方の推しの役者さんへの思いをお聞きして、どんな衣装つくろうかなって考えていきます」。

なんだか楽しそうです。

「楽しいと思いますよ。追っかけをされてるお客さん、みなさんお若くて、お綺麗にされてますもんね。アドレナリンがすごい出てる、っておっしゃいます」

こんな衣装を着てくれたら素敵だろうなあと、想像しながら注文するとき、仕上がりを待つ間、プレゼントする瞬間、舞台でお披露目されるとき、踊る姿を観る時間、一着の贈り物で、何度もアドレナリンが増量されそうだ。

一方で、アドレナリンを増量させる手段として「大衆演劇の衣装を、ご自分でも着てみるというのはどうですか?」と溝田さんからまさかの提案。

それってどういうことですか?

「大衆演劇の衣装って、普通の着物の概念から逸脱してますよね。キラキラだったり、フリフリだったり。自分であつらえたりはしないけど、一度くらい袖を通してみたい、着てみたいと思ってる方、案外いらっしゃると思うんです」と溝田さん。

「きぬも」のレンタル衣装より。キラキラでフリフリも思いのまま。
写真提供=あさひや(以下、同)

あさひやでは、この10月に東京・新宿歌舞伎町に新しくできた「ハナミチ歌舞伎町ビル」のなかに、「和レンタル衣装 きぬも」をオープン。各種着物をレンタルしている。

「最初は、役者さんのために衣装のレンタルができないか、と考えたのがきっかけです」

役者にとって衣装はひとつの財産だが、数は年々増えていくばかり。保管もメンテナンスも大変という話はよく聞く。そこで溝田さんは、レンタルの衣装があれば役者にとって重宝かもしれない、と思いついた。「だったらそれを役者さんだけではなく、大衆演劇の衣装みたいな着物を着てみたいと思っている方たちにも、貸し出せたら楽しいんじゃないかと考えました」

着付けとヘアセット付き。1日限り、花魁風の衣装と髪型で写真を撮ったり街を歩いたり、なんていう変身もアリだ。

こんな大変身も。

さらに、役者とお揃いの着物を着て舞台を応援、というプランもある。

「フィナーレでお客さまもお揃いの衣装を着ていたら、すごい一体感が生まれて盛り上がりますよね」

事前に告知した日の限定プランだが、予約すると、役者とお揃いの着物やはんてん、法被などを借りることができ、そのまま地下の「歌舞伎町劇場」で推しの役者を応援、送り出しで一緒に撮影、も楽しめる。

舞台の上の役者とお揃いで。

一番の目標は、「役者さんに向けて、めったにやらない大きな芝居の、衣装の貸し出しができるようにしたいです」という。

文・佐野由佳

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