渋谷天外VS恋川純 大衆演劇との決闘(?)について天外さんに聞きました。

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松竹新喜劇の代表にして関西喜劇界のサラブレッド・三代目渋谷天外と、大衆演劇界の爆笑プリンス・二代目恋川純が、「ふたり座長」として公演する舞台が、この2月23日(木・祝)〜25日(土)、神戸三宮シアター・エートーで開かれる(問い合わせ080-6148-8152)。

演目は「丘の一本杉」。茂林寺文福、舘直志(たてなおし=二代目渋谷天外)の合作で、曾我廼家十吾と二代目渋谷天外が昭和12年に初演した、いってみれば新喜劇のルーツのような芝居だ。これまでにも、松竹新喜劇で何度となく上演されてきたが、今回は、渋谷天外&劇団往来の鈴木健之亮プロデュース公演。演出・構成は喜劇作家の徳田博丸。桐龍座恋川劇団からは恋川純座長のほか、恋川千弥、鈴川純加、鈴川かれんも参加。松竹新喜劇の役者はもちろん、元OSK日本歌劇団男役トップスターの高世麻央など、演劇界の異種格闘技の様相を呈する舞台となる。

なぜ、恋川純座長とタッグを組むことに? 渋谷天外さんに、聞いてみた。

取材はZoomで。移動中の車を路肩に止めて、「カメラ正面のがいいよね?」。お気遣いいただきありがとうございます。

「飲んでる席で、どちらからともなく、一緒にまたやりたいねということになりまして」。実は天外さんと純座長は、2017年に新国劇の名作「だんじり囃子」(北條秀司作)が上演された時に、共演した縁がある。このときもさまざまなジャンルの演劇人が集った。演出を担当していた、辰巳柳太郎の最後の弟子と言われる細川智の引き合わせだった。

「細川さんから、とてもいい役者さんがいるからと紹介されたのが純君でした。大衆演劇の役者さんは、劇団によって芝居のやり方も違いますよね。ほんとにそれぞれ個性のあるやり方をされる。そのなかでも、純君はとってもナチュラルにお芝居してらしたんですよ。それが僕の芝居論と合った。藤山寛美先生がよく、『見てきたような芝居はするな』とおっしゃったけど、役者には寄木づくりと一木(いちぼく)づくり、ふたつのタイプがあって、どこかで見てきたような寄せ集めの芝居をするのか、円空さんが一本の木から仏像を彫り出すみたいに、その人が生きてきた人生とか考え方とかが、芸にそのまま出ていくような芝居をするのか。『楽屋が舞台に出るで』ってよく言われました。僕自身、そんなたいした役者やないですから、偉そうなことは言えませんけど。純君とやったときに、素直に芝居してたから。いいなあと思って」

松竹新喜劇は大衆演劇との縁も深かった時代もあるという。

「藤山先生がいたころは、大衆演劇の方たちと一緒にやってましたからね。僕らでも若いときに、藤山先生から『半年くらい大衆演劇に行ってくるか』って言われたことがありますよ。羽二重の付け方、着物の着付けひとつにしたって、うちの劇団よりも、やってる本数も多い。刀の持ち方、立ち回り、すご腕の方がたくさんいらっしゃったんですよ、当時ね。そこで勉強してこいと。もちろんそれは藤山先生の考え方であって、ずっとそうしてきたわけではないです。僕は結局行ってませんけど、うちの親父(二代目渋谷天外)に言わせると、大衆演劇に行っていろんなこと身につけてくると、それを今度は削ぎ落とすのにものすごく苦労すると。テクニックとしては覚えても、それをそのままうちで使うなっていうことじゃないですか。その判断が難しい」

「あ、言うてしもた」。

「丘の一本杉」は、老いをテーマにした父と息子の人情喜劇。天外さん自身は10年ほど前に上演しており、いままたこの演目を選んだのは?

「自分のなかでは、前回、消化不良で出来が悪かった。でも、行く先々で、自分も父親のことを思い出しましたとか、声をかけてもらったんです。父と子って普遍的なテーマだから。それに、男ふたりががっちり組んでできる芝居はそんなにないので、今回やってみようと。はい、ハッピーエンドの芝居です。って、あ、言うてしもた(笑)」。言うてしもたけど、そこにたどり着くまでの物語は観てのお楽しみ。育ってきた畑の違う役者どうしが、ひとつの舞台をつくりあげる。「その化学反応が楽しみ」という。

また芝居の本編とは別に、天外さんと純座長と20分ほどのおしゃべりタイムもあり、「この時間に、客席からお題をもらって、『俄(にわか)』しよかっていう企画もあるんです」。

「俄」は、俄狂言、すなわち即興の滑稽寸劇で、喜劇そのもののルーツともいえる。そんな原点に立ち返った舞台で、笑いを追求するふたりの、どんな物語が繰り広げられるのか。乞うご期待。

(2023年2月2日 Zoom)

取材・文 佐野由佳

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