桐龍座恋川劇団に、都若丸座長が入団?!

4321

行ってきました、神戸・新開地劇場千秋楽

8月、神戸・新開地劇場の桐龍座恋川劇団の公演は、途中、8月12日から千秋楽までの毎日、都若丸劇団がゲスト出演していた。本来、都若丸劇団が8月公演をするはずだった京都の劇場が、新型コロナの感染拡大防止対策のため休館になったことで、はからずも実現した夢のようなコラボレーションだ。関東平野で指をくわえていたチーム大衆演劇ナビだったが、世紀の舞台を観ずしてどうすると、炎天下の8月30日、神戸へ向かった。到着すると、劇場前はすでに長蛇の列。さすが当代きっての人気座長の共演、しかも千秋楽だ。しかもソーシャルディスタンスだ。最後尾に並ぶ。熱いぜ(暑いぜ)、神戸! 

この日、芝居の演目は「旅役者」。おちぶれかけた旅芸人一座が、旅の途中の清水の次郎長を、そうとは知らずに座員にスカウトしてしまうことで巻き起こるドタバタ喜劇。大衆演劇ではなじみの演目だ。旅芸人一座の女形(おやま)座長に二代目恋川純、座員その1に都若丸という、普段ではありえない豪華キャスティング。芝居のあとの口上で、両座長が準主役の次郎長役をやらなかった理由を「だって、この芝居の次郎長役はつまんないから」と声を揃えて笑いを誘う。たしかに見せ場は、女形座長と座員その1が、無理矢理スカウトした次郎長に芝居の稽古をつける、ほとんどナンセンスなやりとりにある。純座長、若丸座長がたたみかけるように繰り広げる漫才のようなコントのようなやりとりに、会場は湧きに湧いた。

普段、自分の劇団ではやらない演目で、他の劇団のゲストに行ったときに演じたことは何度もあるが、こんなに楽しかった「次郎長と旅役者」はなかったと都若丸座長。

大先輩である若丸座長に、くらいつきながらも容赦なく突っ込んでいく純座長。

両者互いの尊敬と愛情と信頼関係があってこその舞台は、後半舞踊ショーでさらに盛り上がり、都若丸劇団でおなじみの「ミックスジュース」(という定番の出し物)に至るころには、場内は笑いと熱気と感動の渦に。ふと、少し離れた隣にいるカルダモン康子をみやると、感極まりながら爆笑していた。

<三日後…>

佐野:カルダモンさん、また涙目になってる。

カルダモン(以下、カル):思い出すだけで泣けてくる。舞台のうえで楽しそうな人たちを観るのって、幸せだなあって。ほんとに感動したのよ。あんなに純粋に楽しそうに、まっすぐ生きてる人たちがいるってことに。

佐野:純座長も若丸座長も、座員のみなさんも、もちろんお客さんも、あそこにいるみんなが楽しそうだったもんね。楽しかったし。

カル:両座長の共演、もっと何度も観たかったなあ。今月こそ、関西の人がほんとにうらやましかった。きっと、どんどんお二人の関係性が変わっていって、化学変化を起こして舞台が盛り上がっていったただろうし。純座長が、若丸座長を慕っていて、役者として尊敬していることは取材のときにもお話されていたけれども、若丸座長も純座長を、かわいい弟分というだけでなく、役者として座長として認めていて、尊重している感じがすごく伝わってきた。変な言い方だけど、若丸座長の見方が変わりました。いや、別に悪いイメージだったとかそういうことではなく。なんていうか、ひとまわりも年上の若丸座長も必死で、一生懸命だった感じが、素敵やん(@島田紳助)ってもう、そこにつきますよ。本気でやらないと、負けられないっていう思いだったんだろうし。そう思わせる純座長にも、ぐっときたよね。

佐野:三吉演芸場の公演中に純座長が、8月、若丸座長はじめ都若丸劇団が長期でゲストに来てくれることになったことを話したときに、ゲストではなく、座員として扱ってくれと若丸座長から言われたという話をしてましたよね。あそこからすでに感動した(笑)。

カル:そうそう。

佐野:どちらの座員の人たちも、すごく楽しそうだった感じもとてもよかった。都若丸劇団の都剛副座長が、日頃は、ほかの劇団との交流がほとんどないので、まさか半月でこんなに仲良くなれると思ってませんでしたと言ってたのは、ほんとにそうなんだろうね。その仲良くなった空気が、舞台をさらに面白くしてたと思う。

カル:流儀も違うだろうし、いつもと勝手が違うわけで。お互いに気持ちよくやっていこう、一緒にいい舞台をつくろうという思いがないとできないよね。

佐野:確かに、ゲストが来ている舞台って、必ずしもそれがいい効果になってると思えないこともあるものね。

カル:純座長が、自分の劇団のファンの人も、都若丸劇団のファンの人も、どっちがどうだということ関係なく応援してくれたことが、ほんとに嬉しかったと話してたね。ああいう本音が言えるくらい、演じる側にとっても気持ちのよい舞台だったということでしょう。今回は、一回一回が特別公演だったんだと思う。

佐野:それぞれのファンの人たちにとっても、意外な一面をみられたのではないかな。

カル:またお客さんの反応のよさも、両劇団ならではだと思いました。役者と客はどこか似た者どうしが引き合うっていうか。以前、都若丸劇団の「三下剣法」を観たときに、若丸座長演じるお腹ペコペコでふらふらのマツが舞台に登場したら、すかさず舞台にお菓子をすべらしたおじさんがいたのよ。芝居の最中によ。すごいなあ、やるなあと思って。お客さんも心得ていて、めいっぱい芝居を楽しもうっていう気概が関西には溢れてる。2000円払ったら、4000円ぶん笑って帰ろうっていうね。受け身じゃないんだよね。役者さんのお客さんいじりも絶対に関西は多いし、お客さんも、いついじってくれてもオッケーな感じ。

佐野:話は「関西」に広がりましたが(笑)。でもほんと、今回ばかりは関西の人がうらやましかった。もっと通いたかったな。

カル:コロナじゃなければ、もっとみんな観たかっただろうけど、コロナじゃなければ実現しなかった共演だっていうのがまたなんとも皮肉だけど。でも純座長が、取材のときにコロナのおかげで気づけたことがたくさんあるって言ってたじゃない。そう言える人たちだから、こういう舞台ができるんだよね。これからも、いろんな災害や病気が、誰の人生にも起こりうるわけじゃないですか。でも、そこで凹んでるばかりじゃなくて、何をすべきか必死で考えて、前を向いて行動していけばきっと何かを見つけられる、っていうことを両座長があらためて教えてくれたよね。われわれも含めて、お客さんたちみんな、コロナのせいでいろんなことがあったけど、コロナのおかげのあの舞台が観られたっていうことに、どれだけ励まされたか。もう、役者の鑑!

佐野:できたら来年も一緒に、っていってたね。実現するといいなあ。

カル:ほんと、ほんとー。

(2020年9月3日)

関連記事