第8回 わしの酒が飲めんのかい!

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座長になってから、劇団は順調だったのですか?

いや、近江飛龍劇団って、浮き沈みがすごく激しかったんで、ほんまに落ち着いてきたのはこの12、13年です。東京の浅草木馬館で20歳(はたち)の公演やったあとに、人気がガクンって落ちたんです。

原因は、最初の結婚です。嫁は役者ではなくて、普通の人でした。その当時は結婚を隠してる人が多かったけど、公にしましたから。ましてや20歳だし。

17LIVEで髪型七変化。

さらに、阪神淡路大震災が起きて。それまで、嫁は神戸の家で暮らしてて、オレだけまわってたんですけど。震災で家が全部なくなって、それから2、3年劇団と一緒に連れてまわってたんですけど。不思議なもんで、生活が見えると人気が落ちる。はっきりいって、劇団たたまなあかんなっていうくらい人気が落ちたんです。23か24歳くらいのとき。うちの母親(近江竜子)に、普通の仕事しようか、居酒屋でもやろうかっていうくらいやったんです。

復活したのは、ここ(大阪府堺市)の近くなんですけど、ハイカラ村っていう健康ランドがあったんですよ。当時、自暴自棄になって、仕事中でも酒飲み出したんですよ。それがものすごく受けてしまった。土地柄なんですけど。ちょっと向こうにいくと河内(かわち)で、ガラが悪くなるんですね。雨が降ると、土建業のおっちゃんたちが、自分とこの従業員連れて観に来るんですよ。ほたら、歌うたいながら客席で握手してまわってると、酒飲んでけって、飲まされるんですよ。いかつい男連中ばっかりで、ビールをバーン出されて、一気飲みするじゃないですか。ウォーッてなるじゃないですか。ありがとうってまたまわってくと、違う団体がおるんですよ。おう、座長飲んでけって。向こうでもらいましたからって言うと、なんやあいつのとこのが飲めて、わしの酒が飲めんのかい!ってなるから、じゃいただきますって。歌いながら。で、もう舞台帰ってきて、次の出番の女形の化粧しようと思ったらふらっふら。それがものすごい受けてしまったんですよ。ほんまおかげで、1カ月で体こわしました(笑)。

でも、そのたった1カ月の舞台のうわさが、全国に飛び火したんですよ。面白いヤツがおるらしいって。それで一気に全国から、うちの劇場に出てくれってオファーが増えたんです。

あくなき役者魂は、現在さらに加速して炸裂。

その前からも、むちゃくちゃやってたんです。ロックのナンバー踊ってみたり、お芝居でもミュージカル風にしてみたり。人がやらんようなことやってたんですけど、まったく受けなかったです。でも近江飛龍っていうヤツが面白いぞ、って声があがって、1、2年のうちに、いままで受けんやつが全部受けはじめた。同じことやってるのに。観に来るお客さんの意識って、面白いヤツがやってるとなると、何でも面白くなってしまうんですね。

だから僕、ここに家建てたんですよ。ホームグラウンド。ハイカラ村で、いっぱい仕事しようと思って。家建ったらすぐ、ハイカラ村つぶれました(笑)。倒産した。だったら、もうちょっと、便のいいとこがよかったです。大阪でもちょっと端っこなんで、ここ。仕事の打ち合わせいうて、大阪市内まで行くと3時間仕事なんですわ。行って帰ってくると。大阪市内に住んでたら、10分か15分ですむとこが、3時間かかるんですよ。でもね、17LIVEやってて大きな声出しても、誰も何も言ってこないから、それはいいかな(笑)。

(2020年8月29日 堺市自宅特設スタジオにて)

取材・文 佐野由佳

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