第12回 ゲロちゃんの行く先

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れからどんなことをやって行きたいですか?

いろいろありますけど、本来だったら今年の末から来年にかけて、定期的な年3カ月の舞台公演とは別に、単発の舞台公演、一日興行を、大阪からどんどん広げていって関東まで持って行くっていう計画を立ててたんです。大阪公演、次の日、愛知、静岡、東京みたいに、1日ずつ。でもコロナの影響で、もう絶対に無理になってきてるんで。計画がいったん延びてしまったから、ゼロに戻してしまったんです。

思い切り芝居をしたいというお気持ちがありますか?

ありますよ、ずーっと。いまは溜めとこうと思って。

お客さんを泣かせる芝居が大好きなんやけど、ニーズに合わないなという時代があったんで、喜劇推しで来ましたが。いままた、お客さんから泣く芝居が観たいという声も聞くので、次にやるときはがっつりとした芝居をやります。

「喜劇版 雪の渡り鳥」を、必ず千秋楽で上演されているのはもう昔からですか?

30年、いや40年くらい前からです。あれはうちの母親(近江竜子)の脚本です。母親が僕の役(チンペイ)をやってました。偶然の産物みたいなもんで、本当は、ちゃんとした「雪の渡り鳥」をやる予定で、うちの母親が銀平役をやってるときに、お笑いにしちゃったっていうか、せざるをえなかったというか。子ども心に覚えてますよ。本番直前に、出てこなあかん人間が逃げていなくなったんですよ。楽屋にもどこにもいない。そんとき、違う人が代役で入るのにまだ用意ができてないから、舞台に向かって、「時間とばして!時間とばして!」っていってるのが客席にまる聞こえ。序幕にそんな笑いが入ってしまったら、これはもうお笑いで通すしかないと。いま笑川美佳がやってるじいさんの役は、新国劇出身の人がやってました。

うちの劇団、そういうの多いです。もうやってないですけど「浜松情話」っていう芝居も、ほんとはすごい悲しいお芝居なんですよ。最後に、間違えて嫁さんの腹を切ってしまうっていう、涙、涙の物語なんですけど。それも序幕で、そのまたおじいさん役の人とうちの母親がやりすぎて、最後の幕の時間がなくなって一幕目で終わってしまったんです。芝居が完結しなかった。だったらもうお笑いで終わろうっていうので、お笑いになっちゃったとかね。

考えてみたら、17LIVEで誕生した「大明神」のキャラクターも偶然の産物ですからね。知らない方のために説明すると、ビニールの花魁のカツラに、歌舞伎の隈取みたいなお面をかぶったキャラクターで、中身は嫁の笑川美佳。中身が入ってないときも、17LIVEの画面の後ろに、いつも飾られていて視聴者から「大明神様」と呼ばれてます。

めったに登場しない動く大明神様(後ろ)と、17LIVEで。

4月に公演ができなくなって、17LIVEで京橋の舞台から無観客のライブ配信することにしたとき、楽屋にね、そのお面と、ふくらんでないビニールのカツラが、なぜかあったんですよ。で、僕が女形で踊ってるときに、帯がほどけかけてたのに気が付いた嫁が、素顔で映りたくないもんだから、その隈取のお面とビニールのカツラをかぶってでてきたんですよ。黒子みたいな感じで。

そしたら、黒子やけど目立ってしまったんですね。で、それを観てた視聴者の誰かが、コメントで「大明神」といいだしたら、勝手に大明神になってしまったんです。さらに、誰かが「ありがたや」ってコメントしたら、全員が「ありがたや」と書き出した。

ついには、キャラクターグッズまでつくりましたから。ほんっとに一人歩きししたキャラクターです。

着ているTシャツも、昔つくって売れ残ってたのだったんですよね。大明神が着てるうちに、欲しいって売れ出して、在庫一掃しました(笑)。

DVDやグッズの発送のため、日にち毎日せっせと通う郵便局。

もうひとりの人気キャラクター、ゲロちゃんはいつ誕生したんですか?

もともと浪花劇団(笑川美佳の実家の劇団)でやってた、女形が主役の芝居があって、そこに登場する三枚目がゲロちゃんなんです。ほたら、むこうのお父さん(浪花三之介)が、座長やったらゲロちゃん主役でできるんちゃう? 主役のつもりでやってみて、って言われて。主役になっちゃったんですね。それが「ゲロ松お仙」です。もともと違う題名やったらしいんですけど。そんなん多いんですよ。偶然から生まれるっていうのが。

そのゲロちゃんが、SNSのなかで一人歩きし始めたきっかけは、4月公演のときにお客さんからアロハシャツをもらったからなんですよ。だったら、ゲロちゃんがこれ着てハワイに行ったらいいかなと思って、倉庫で撮影してYouTubeに流したら、世の中止まってしまったから。いろんな意味で帰って来られなくなったんですよ。どうしよーって思って(笑)。飛行機乗り間違えて、パリ行ったり、スペイン行ったりという設定で、緊急事態宣言が解除になるころ帰国したストーリー仕立てにしました。

まだ二本くらい撮り溜めがあるんですけど、そこまで編集に手がまわってません。ごめんなさい(笑)

おむすびバトンを渡すゲロちゃん。

(2020年8月29日 堺市自宅特設スタジオにて)

取材・文 佐野由佳

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