第9回 うわさの男の再婚話

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結婚は役者人生に大きく影響するんですね。

一回目の結婚が失敗したのは、やっぱり一般の人と役者っていうのは、なかなかむずかしいというのがわかってきたからです。

阪神淡路大震災直後は、劇団で一緒に暮らしてんたんですけど、神戸が落ち着いてきて、嫁は神戸へ帰っちゃったんですよ。前の子どもが、小学校に入るのもあったんですけど。

それで、嫁さんと暮らしてないっていうのがわかったら、どん底だったのに、お客さんがワッと増えだしたんです。ほんまなんですよ。

ハイカラ村で火がついて、全国でも人気が出だしたこともあって、しょっちゅう神戸に帰れなくなる。最終的には、僕からから別れようって言ってしまったんです。それから3年くらい別居して、離婚しました。

その間に、いまの嫁(笑川美佳)と知りあったんです。なかなか、お父さん(浪花三之介)に許してもらえなくて。座長になる前、10代のころに遊んでたうわさがすごすぎて。

遊んでたころは、ほんまにモテました(笑)。いまやから言えますけど、劇団の子らと、「一回抱いた女は二度と抱くなよ」みたいなこと言うて。あはは。いま考えたら笑っちゃうんやけど、その当時はそれがカッコいい、みたいな感じでしたから。そんなこと言うてた話が、ほかの劇団さんでどんどんふくれていって、何年経っても消えなかったんですよ。

うちの劇団って、もともとほかの劇団と親交がなかったんですね。うちの母親(近江竜子)が、仲良くしたら困ったときに助けてくれとか言われるからって。昔、困ったらしんですわ。だから、なるべくつきあうなと。

そのために、ガラパゴスやないけど、外からは様子がわからない。近江飛龍劇団はどうなってるんだと、うわさだけが飛び交って。あげくの果てに「あいつは男気のあるやつだ」みたいなうわさも勝手に飛んでしまって。石原軍団みたいに近江軍団、言われて。元ヤクザの親分やったみたいな人が、ご贔屓さんになってくれたりとか。ほんまのオレはそうじゃないのになー、って思ってました。

いまの嫁と知り合ったのは、うちの母親が一回くっつけようとしたことがあって。「再婚するんやったら、あの子やったらええで」って言い出して。でも、お互いその気がなかったんですよ。

そしたら、ある日突然、電話かかってきて。酔うてて。「どうしたんですか?」って聞いたら、「男にふられた」と。数ある電話番号にあちこち電話して、たまたまオレに当たってしまったらしいんですけど。それで話聞いたって、からですね。

でも、向こうの親になかなか許してもらえない。うわさの男だから(笑)。そこはね、ちゃんとおつきあいしようと思ったら、ルール守る人間なんで。お父さんに許してもらえるまでは、肉体関係持たなかったです。2年間くらい。

離婚できてなかったのもありましたし。離婚が成立するまでは、いろんなことも前に進めない。

気持ちとしてはつきあってるんで、デートはしてましたよ。でも、お父さんにバレたらえらいことになるっていうんで、劇場関係の友だちが隠蔽工作してくれました。デートしてるときは、オレと一緒に遊んでることにしていいよって。僕、役者の友だちは少ないんですけど、そういう大道具さんとか支配人とか、いい友だちがおるんです。

向こうの母親は、すごい推してたみたいなんですけど。何で2年かかったかっていうたら、話しに行くと、いないんですよ、お父さんが。とにかくいない。僕もお父さんも、まだ座長でバリバリやってたから、時間が合う日がお互いそんなにないんですよ。ほたら、一番合うのは、座長大会くらいなんですわ。年に2回か3回は顔合わすわけですよね。

すいません、話があるんですけど。あ、終わってからにしようっていって、終わってから行くといないんですよ。

それまでにね、向こうの母親が、ウソついて、目盗んで、嫁をつれてきてくれとったんですよ。お父さんに隠して。お母さんは、たまに来てオレを見てるから、悪いうわさを徐々にもみ消してくれたんです。

最後に結婚が決まったのは、うちの母親が病気になってすぐですね。入院して手術して、うちの嫁と向こうの両親がお見舞いに行ったとき、管(くだ)いっぱいつながれてるのに、母親がベッドのうえに正座して、うちの息子と一緒になってやってくれって言ったらしいです。

ほんでおれも、めちゃめちゃ急がなあかんと思って、「結婚させてください」言ったんですけど、向こうもそんなすぐ無理やって。でもわかったから、結婚式の写真だけ撮っておいで、そしたらお母さんも安心するやろ、うちの娘を休ませて写真館行かせるから、一緒に行っといで、って。わかりましたって言って、写真館に行く前の日に、うちの母親、死んじゃったんです。結婚したのは翌年です。忘れないように、結婚記念日は母親の命日にしました。

奥さまのどんなところが好きですか?

そんなに、役者さん役者さんしてない。考え方が、ほんとに普通の人です。あと、男の人を働かせるコツを知ってます。はは。飴とムチの使いわけがすごいうまいですね。こうやったら、この人は働く。こうしたら、こうなるっていうのがよくわかってる。

もしくは、アドバイザーでもありますね。あ、それはあかん、やめたほうがいいよとかって言ってくれます。舞台のことでも、「観てる人、女の人が多いんやから、わたし女として、そんなん観たないもん」って。たとえば、うちはいま劇団で血糊をやめたんです。たまにはしますけど、前は、そういうリアリティを推してるときがあって、舞台いっぱい血糊を使ってやってたんですけど、「やめたほうがいいんじゃない? お客さんそんなの求めてないと思うよ」って。じゃあそこはきれいにいこうと。そういうアドバイスは、すごいくれます。最終的にそれは単に、後片付けが大変やからっていう理由やったんですけど(笑)。

ちなみに、17LIVEでおなじみの「マリーゴールド」の舞踊で、画面に向かってネックレスをかける、っていうネタがありますよね。あれも、嫁のアイデアです。踊ってたら、持って来たんですよ。カメラの向こうで何か振ってる。17LIVEのあとって、必ず1階の食卓で反省会みたいな飲み会するんですけど、びっくりするやんあんなん出されたら、って言ったら、「女の人ってそういうことしてほしいねん」って。

美佳さんも子どもの頃から舞台に立ってこられたんですよね?

そうですね。子役のころからナンバー2やったんですって。座長(浪花三之助)の子どもっていうだけで、むしろナンバー2でおらなあかんかった。だから、あんま舞台に興味なかったみたいです。

ほんまに真剣に舞台やりだしたのは、結婚してからです。結婚してうちの劇団に来て、三枚目やらしたんですよ。ほたら終わったあとに、「あたしこんなことしたことない」っていうから、「え?」って。「自分の劇団におるときは、娘役しかしたことないのに」って言うから、「おまえ、できてるよ。三枚目の素質あるわ」ってやらしたら、どんどん開花して。近ごろは、「わたしって、そういう素質あったんやなあ」ってたまにいうけど。いや、普段がおもろかったんで、絶対舞台でも面白いやろなって思ってました。1日のうちに、何か起きるんですよ。そのたんび、爆笑してます(笑)。

さすが境のビバリーヒルズなだけあって、豊田家御用達の『穂の香』、バツグンです。

(2020年8月29日 堺市自宅特設スタジオにて)

取材・文 佐野由佳

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