もちろん、ことはそんな簡単に推移しない。
ルーティーンに飲み込まれる日々が、それから飛龍の上にも私の上にもやってきた。
劇団は、演題毎日がわり、休みがなく、練り上げたものというより、劇団伝来の「手の内に入った」舞台を昼夜くりかえして一月を過ごし、引っ越しに等しい大仕事の果てに次の公演地に移り、休みもなくまた毎日替わりの公演を続ける。
私は親父とともに、その番組を作って作って作って…。
飛龍が言っていたが、
「俺も若も飢えている」
という状態だ。
どうそれを凌ぐのか。
色々考えた、と思う。しかし、古い本のタイトルではないが、「流されゆく日々」を暮らす以外に出来ることはなかった。
無能な私は、親父の足を引っ張らないようにするのが精一杯で、海千山千の劇界住人にもまれ続けるしかない。
座長となった飛龍には劇団経営の問題がのしかかるし、しかも「一卵性」と思われた母竜子を病に喪うという、避けがたくも大きな問題が待っていた。
ただ、それと前後して、飛龍が笑川美佳という得難い伴侶と巡り会い、新しい劇団の形を模索する端緒につくことができたことはまだしもの幸運だった。